呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

#★★★★★

仁義の墓場

監督:深作欣二 すごい映画だった。 この世に何一つ良いことをもたらしていなさそうなヤクザ男が、触れるもの全てを(主に不幸にもこの男に関わってしまったヤクザ達を)傷つけていく。 人の家(というかヤクザの家に)に上がり込んできて、背中まげて俯いて…

ボクシング・ジム

2022/6/16鑑賞 監督:フレデリック・ワイズマン テキサスにあるボクシング・ジムの風景を映す。試合はない。特にこれといった事件は起きない。ただ、100点のショットを100点の編集でつなぐような完璧な面白さがある。 同じワイズマンでもバレエ映画(『パリ…

リバー・オブ・グラス

2021/1/17鑑賞 監督:ケリー・ライヒャルト この監督の映画を見るのはこれで4作目で、過去に見たのは『ウェンディ&ルーシー』、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』、『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』の3つ。 冒頭五分くらいでもう完全に打ち…

ヴィレッジ

2015/11/6鑑賞 監督:M・ナイト・シャマラン シャマランの撮るハイファンタジーが見たい、と思わせる、見事なまでの演出と絵作り。脂が乗っている。シャマランの最高傑作のひとつだと思う。 シャマランの特徴として、垂直に伸びる縦の構図、演出が挙げられる…

赤い女(『鬼談百景』所収)

2018/7/28鑑賞 監督:大畑創 黒沢清「花子さん」に似た赤い女が出てくるのだが、まったくの別物に仕上がっている。 赤い女の都市伝説を話したら、その話に出てくる「赤い女」が本当に現れる・・・というそれ自体はよくある構造の怪談なんだけど、その「赤い…

サンライズ

2012/10/10鑑賞 監督:F・W・ムルナウ そもそも世評の極めて高い映画ではあるが、私も大傑作だと思った。上映時間は95分。 お話としてはどうってことないほど陳腐なのに、思わず「これには映画のすべてがある」と訳知り顔で言いたくなる。 霧が出た夜、悪女…

霊長類

2016/9/21鑑賞 監督:フレデリック・ワイズマン 動物実験を扱ったドキュメンタリー映画。 亜人種に感情移入するのは簡単なので、猿の脳に電極埋めて電気信号で交尾させたり、解体したりするのを見ているとヤバい。猿の鳴き声がだんだんと悲鳴とか怒号のよう…

『ゴジラS.P』第10話「りきがくのげんり」

2021/5/28鑑賞 監督:高橋敦史 脚本・SF考証・シリーズ構成:円城塔 第9話で命の危機に瀕したはずの李博士と、マキタ、神野銘がどこかの風変わりなレストランで食事をとっているシーンから始まる。いささか唐突なこの場面は、おそらくは回想シーンであるの…

グレート・ウォリアーズ/欲望の剣

2016/9/3鑑賞 監督:ポール・バーホーベン 卑しい顔をした聖職者が聖餅を配っているすぐ横では腹の出た女が酒をふるまっている戦場の混沌で、街を奪われた領主アーノルフィニは「なにをやってもいい」と傭兵どもを煽ることで、残虐の限りを尽くして街を取り…

廃墟の群盗

2018/8/28鑑賞 監督:ウィリアム・A・ウェルマン 銀行強盗をはたらいた連中が、娘と老人しか住んでいないゴーストタウンにたどり着く。そこで実は二人が黄金を採掘していると聞きつけた悪党どもが、案の定良からぬことを企むのであった。 めちゃくちゃ面白か…

愛の勝利を ムッソリーニを愛した女

2013/9/26鑑賞 監督:マルコ・ベロッキオ 邦題の通り、ムッソリーニの最初の妻になった女性の波乱万丈の人生(実話)を描く作品。 滅茶苦茶面白い。非現実的な画面作り楽しい。カメラ、演技、演出のテンションが異常に高くて、時折殆ど歌劇のようだ。 人物を…

西部の人

2013/12/29鑑賞 監督:アンソニー・マン 大傑作。美しい。シネマスコープを存分に生かした空間造形に痺れた。 手前になめるように人物を配置し、奥からロングショットで人物を出現させる、というシネマスコープではむしろ基本的なショットを高頻度で使い、適…

セルラー

2016/12/2鑑賞 監督:デヴィッド・R・エリス 完璧なジェットコースタームービーで、死ぬほど面白かった。 誘拐された女性が、偶然繋がった携帯電話の青年に助けを求めるというサスペンス映画で、女性がキム・ベイシンガー、青年がクリス・エヴァンス、誘拐…

夜よ、こんにちは

2013/11/18鑑賞 監督:マルコ・ベロッキオ 傑作だ。 歴史さえ、視点と空間を限定することによって現在の物語として、そしてフィクションとして撮ることができるし、偏った視点こそフィクションなのだということを思い知らされる。 実際にあった事件を題材に…

美貌に罪あり

2016/8/5鑑賞 監督:増村保造 杉村春子、山本富士子、若尾文子、川口浩、野添ひとみが出演している大映のオールスターキャスト映画で、美術、衣装、照明、俳優、構図、編集がどれも高い水準でまとまった超傑作。 いい映画だ~文句のつけようがない。 杉村春…

僕の彼女はどこ?

2016/5/10鑑賞 監督:ダグラス・サーク 自分が初めて見たサークはこれ。多幸的なテクニカラーに目を奪われた。 独身のまま晩年を迎えた億万長者が、かつて自分をフった女性の家族に10万ドルを上げたうえに、そこに下宿人として居座ることで、大金を突然手…

草原の追跡

2017/1/8鑑賞 監督:ジャック・ターナー アルゼンチンの草原を舞台にした一種の西部劇で、ロケ地もアルゼンチンらしい。この映画の驚異的な点は、ドラマをひたすら背景で描写・演出する、、、ということをロケ撮影でやってのけてしまっているところだろう。 …

翼に賭ける命

2017/2/28鑑賞 監督:ダグラス・サーク 完璧なアメリカ映画だった。増村のようなモダンな使い方とはまた違った、古典的なシネマスコープのモノクロ映画ってこういう風にやればいいのか。増村の『爛』でも思ったが、シネスコにおける仰角ショットの水準がここ…

こわれゆく女

2014/12/4鑑賞 監督:ジョン・カサヴェテス 言わずと知れた傑作で、すごかった。舞台劇を間近で見ている感じがあり、被写体に遅れてピントが合うところなどが猶更そういった印象を強めている。 フレーミングと役者の動きがともに自由だが、ジーナ・ローラン…

エレニの旅

2014/2/7鑑賞 監督:テオ・アンゲロプロス 壁抜けの撮影も一つのショットとして数えると、総ショット数は97だろうか。100前後なのは確かだ。170分の映画でこのカット数の少なさ。 大俯瞰を撮る時は、人をシルエット同然にするため黒い服を着せるべし、あるい…

2017/05/20鑑賞 監督:ジョルジュ・シュヴィツゲベル やばかった。人間にコントロールできるとは思えないほど複雑な立体の回転を複数同時に別々の動きで動かしている。この人の作品の中でもかなり複雑なので対象の把握や理解が追いつかず、ひたすら圧倒され…

裏切り者

2013/5/12鑑賞 監督:ジェームズ・グレイ 刑務所帰りの男(マーク・ウォールバーグ)が叔父の経営する会社に就職するが、そこには悪友(ホアキン・フェニックス)の姿があり、やがて男は入札に係る汚職や談合に巻き込まれていく。 マーク・ウォールバーグと…

引き裂かれた女

2013/4/5鑑賞 監督:クロード・シャブロル 美男美女揃いでゴージャスな色使い、小道具、衣装、建築で飾られる退廃のメロドラマ。 ちょっと筋を追えなくなるくらいに編集でバシバシ場面を切っていくのがすごい。洗練というのとはまた違う奇妙な説話だ。 それ…

ブラックブック

2013/8/18鑑賞 監督:ポール・バーホーベン バーホーべンの即物性が強烈にはまった題材で震える。善悪というものがなく、抽象にも抒情にも落ちない。つまりはユダヤ人の女の肉体の魔力に負けてしまうナチ将校であるとか、そのナチ将校の死に泣くと言うよりも…

湖のランスロ

2016/10/31鑑賞 監督:ロベール・ブレッソン めちゃくちゃ面白かった。アーサー王伝説の話なんだけど、いきなり騎士の首がチョンパして切断面が見えるわ、血がドバドバ出るわ、で即物的な中世残酷絵巻になっている。また、史劇という大きなものを、小さな形…

昼顔

2016/11/6鑑賞 監督:ルイス・ブニュエル 傑作。光に対する感覚が素晴らしい。例えば、わずかに陽光を浴びて黄金色をまとう雪の白さ、その美しさ。 若く美しい人妻(カトリーヌ・ドヌーヴ)が、淫靡な妄想を繰り返し、やがて娼婦になるという話。画面外から…

しとやかな獣

2013/9/15鑑賞 監督: 川島雄三 (ほぼ)全員悪人。守銭奴一家の住まう団地で繰り広げられる、金と性との暗黒喜劇。 尋常ではない構図、尋常ではないパンフォーカス、尋常ではないフィルムの発色。 どうして面白い構図になるかと言えば、基本的に手狭な中で…

アマルフィ 女神の報酬

2014/12/18鑑賞 監督:西谷弘 海外ロケの観光映画として作られておきながら、観光映画であることを至る所で皮肉る作品になっている。それは、タイトルになっているアマルフィの扱いを見るだけでもわかる。 映画自体はヒッチコック的な映画の最良の部類(ただ…

花子さん

2015/1/18鑑賞 監督:黒沢清 「学校の怪談」のスペシャルドラマシリーズに含まれる短編で第4話。 幼少期に見てトラウマを負ってから何度も見ているが、見る度に黒沢清の最高傑作なのではないかと思ってしまう(映像は貧相な感じで、とてもそうは見えないか…

氾濫

2015/1/8鑑賞 監督:増村保造 好色で金にがめついのに、見え見えの嘘をつき、悪人らしく笑い、基本的にあっさりと浅ましい内面を正直に告白する、ある意味、とても好感の持てる人間ばかり出てくる。 「君には娘は養えないだろ(要約)」「まるで不可能です!」