呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

リバー・オブ・グラス

2021/1/17鑑賞

  • 監督:ケリー・ライヒャルト
  • この監督の映画を見るのはこれで4作目で、過去に見たのは『ウェンディ&ルーシー』『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』、『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』の3つ。
  • 冒頭五分くらいでもう完全に打ちのめされて、天才の仕事だと思った。例えば、ジム・ジャームッシュストレンジャー・ザン・パラダイス』とか、レオス・カラックス汚れた血』、ハーモニー・コリンガンモ』などを見たときのような興奮や確信だ。
  • ファーストカットは静止画の写真にナレーションをかぶせたもので、それが何枚か切り替わっていくと(顔写真にナレーションが被さり、どうやら語り手の出生から思春期までの道のりが、自伝的に物語られているようだ)、やがて粗い画質のホームビデオで撮影された情事の場面に入り、するすると自分が住んでいる場所の前の住人の話題に変わり、そこではどうやら妻が夫を殺害して壁に埋めたらしいことがわかるのだが、そのナレーションはそのままホームビデオで撮影された殺人映像にかぶさっていくのである。
  • 素材的にも手作り感があり、語られている内容も自伝的なものなのに、いきなり亀裂のように他人の殺人場面が入ってきて、その上でホームビデオという媒体は変わらない。その展開自体に衝撃がある。もちろん、その映像が実際に撮影されたわけがない、と見ている私たちは感じるので、つまり今までの自伝語り含めて非常に嘘くさく感じられてもくる。とはいえ、受ける衝撃はそういった語りの構造以前のものだ。
  • まず映画だから動画が出てくるだろうと身構えている観客に、静止画とナレーションを提供するという「スカし」をやった上で、さらに捻っているのだ。
  • 続いて、ジャズドラムの演奏にあわせて、レジのキャッシャーを真上から移した映像を出して、クレジット映像とそれとをカットバックする。お札の出し入れの様子を、PV的、CM的に撮影したもので、それを安い機材で撮っているところにまた妙味があるんだけれど、すぐにそれが実は盗難の場面であることがわかり、刑事が犯人を追いかけて拳銃を抜くという場面に入る。ここも広告的な画面がいきなりジャンル映画に変貌するという、捻った構成になっている。
  • そこから映画は、複数の人物のゆくえをまとまりもなく追っていく。ひとりは、拳銃を無くした刑事。ひとりは、その刑事の娘で、アメリカの田舎町で退屈に蝕まれ、どこにも行けないでいる女性。そしてひとりが、拳銃を拾った男(顔の半分が額でできているのではないかという容姿で、美形とは言い難い)。娘と、拳銃を拾った男はバーで出会い、プールに忍び込み、人を誤って撃ってしまい、逃亡生活に追い込まれる。という、ある種の典型をなぞっていく。
  • 撮影機材は大したものではなく、明らかなインディペンデント映画で、恐らくは自然光で、ゲリラ的に撮られ、雑味もかなりあり、編集も感覚的であっちへ飛んだりこっちへ飛んだりする。その上でなんだか語り口は嘘っぽく、ショットは決まっている。まさしく、原型的な、これこそ映画だと感じるような作品だ。印象としては先に挙げたなかでは『ガンモ』が一番近いかも。撮影のラフさとか、手作り感や、詩としての映画であるような感じが。
  • 娘が草原でくるくると回り、その背後に父親の運転する車が入って来るところや、草原を歩く場面はロメール『レネットとミラベル/四つの冒険』を連想した。
  • 回りまわってどこにも行けない感覚や、何も起こらないという感覚がある点は他の作品同様だろうか。本作が一番強く出ているが。
  • 登場人物の服、車の色などから、メインカラーは水色か。