呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

2021-01-01から1ヶ月間の記事一覧

木霊

2018/3/27鑑賞 監督:黒沢清 90年代黒沢清の才気が感じられる一品。短編だと「花子さん」の次に好き。 運命へと一直線に向かうプロットは「花子さん」同様。いじめられっ子による復讐という点も同様。過去の因縁は「花子さん」の方がより複雑に捻ってあって…

イン・マイ・カントリー

2018/4/17鑑賞 監督:ジョン・ブアマン ジョン・ブアマンの仕事は知的かつ上品で、余裕たっぷり。情報の開示の仕方などは極めて親切だ。 同軸のカッティング・イン・アクションを活用した感情表現は繊細で教育的にうつった。踊るジュリエット・ビノシュの下…

スリー・ビルボード

2018/2/21鑑賞 監督:マーティン・マクドナー 二人の人間が出会ったらほぼ必ず口論になり、叩きつけるように悪態をつき、そして唾を吐きかけたり物を投げたり勢いよくドアを閉めたりする。特に、顔面に粘性のある液体をぶっ掛けようとする傾向は前半かなりし…

恐怖省

2018/1/8鑑賞 監督:フリッツ・ラング 凄まじい傑作。ほぼ全編にわたってみなぎる霊気というか、いまにも幽霊が出そうな感じがやばかった。扉が出てくるシーンはすべてもうただ事ではない。 どの場面も照明による影のつけかたやレイアウトが漫画のように完璧…

素敵な歌と舟はゆく

2017/1/24鑑賞 監督:オタール・イオセリアーニ 超絶気持ちいいフレーミング。人間を歩かせるだけでなく、自転車やバイクを走らせ、船を走らせる。鳥も飛ばすし、犬がわんさか出てくる。電車の模型がくるくると動き回る。特に、予測しにくい鳥の動きがあらか…

her/世界でひとつの彼女

2017/1/22鑑賞 監督:スパイク・ジョーンズ 上海の建築物、パステルカラーの色彩、レンズフレアといった、まるでAppleのCMの延長線上にあるような映像デザインで、現在から地続きの近未来世界を意識させつつ、同時にそれは、加工可能なデジタル撮影でロマン…

七月のランデヴー

2017/1/10鑑賞 監督:ジャック・ベッケル 痛ましさも爽やかさもある青春群像劇。前半、電話のシーンがかなり続くため、視線も空間も生じなくてかなりじれったい気分になる。クラブの場面では前後左右上下が入れ替わりまくるダンスが、カメラに当たりそうなく…

野火

2016/11/21鑑賞 監督:塚本晋也 最初はあまりに安いデジタルの画面とスーパーインポーズの多用に心配になったが、途中で気にならなくなり、安さ特有の不安定さがあってか、なかなか面白かった。 空からの機関銃射撃の表現(誰も銃撃を避けないので異様なシー…

清作の妻

2016/9/6鑑賞 監督:増村保造 増村は大好きな映画監督だし、世評の高い映画ではあるけど、これは嫌い。 抑揚・間のある増村らしくない演技が頻発し、常に辛気臭い音楽が鳴り続けている。白と黒のコントラストは微妙だが、構図はそれなりの水準。 増村の映画…

ア・ダーティ・シェイム

2016/8/1鑑賞 監督:ジョン・ウォーターズ 堅物の主婦シルビアは、豊胸手術で超巨乳ストリッパーになった娘に悩んでいたが、頭を打ったせいで本人もセックス狂いになってしまう。 超巨乳のストリップダンサーが出てくるからそいつが主人公かと思いきや、その…

サンキュー・スモーキング

2016/6/14鑑賞 監督:ジェイソン・ライトマン アーロン・エッカートが胡散臭いたばこ業界のロビイストを演じており、銃器業界のロビイスト、アルコール業界のロビイストなどが友達として出てくる。 面白かった。プロットだけ王道のまま、主人公としてタバコ…

肉体の冠

2016/6/14鑑賞 監督:ジャック・ベッケル 全編を通じてドアと窓の使い方が大胆かつドラマチックで圧倒される。出会いの場面ですでに特徴的な視線劇が展開されているが、脱走シーンやルカの殺害シーンなどでも、動線と距離が明確でアクションが盛り上がるのだ…

リトル・オデッサ

2016/6/2鑑賞 監督:ジェームズ・グレイ ニューヨーク・ブルックリン区のブライトン・ビーチ、通称「リトル・オデッサ」を舞台にしたロシア系ユダヤ人のマフィア映画。 殺し屋のジョシュアが、二度と戻らないと決めた故郷へと依頼のために戻って来る。自室で…

リズと青い鳥

2018/4/21鑑賞 監督:山田尚子 凄いんだけど、ひとつのものを突き詰めた作品で、この先は袋小路なのではないかと思った。内省的過ぎるというか、繊細過ぎるというか。 そういう意味では泥臭く世俗を転がりまわる『響け!ユーフォニアム』本編のほうが自分は…

悲情城市

2016/4/30鑑賞 監督:侯孝賢 これまで個人的な経験に基づいた作品を撮ってきたこの監督が祖国の歴史的題材に挑む、転換的な作品ということらしい。映画は1945年の玉音放送から始まり、「第二次世界大戦終結」→「日本による台湾統治の終焉」→「二・二八事…

白熱

2016/5/5鑑賞 監督:ラオール・ウォルシュ すこぶる面白い。破壊の連発。下品な女を美しく撮る。母の死を知ったジェイムズ・キャグニーが食堂で泣き叫ぶところは、エキストラにわざと事前説明をしていなかったか何かで、盗み撮りのようなリアルさが出ている…

アナイアレイション -全滅領域-

2018/03/13 鑑賞 監督:アレックス・ガーランド 主演はナタリー・ポートマン。 プロダクションデザインにいくつか面白いものがあったのと、光にネガティブな意味を含ませている点はよかった。原作とはかなり別物。 映画としては……もっと作劇面でのアイデアが…

ロスト・バケーション

2016/7/23鑑賞 監督:ジャウム・コレット=セラ 非常につまらない。時間稼ぎみたいなスローモーションばっかり。 他に人間がいない秘密のビーチでサメに襲われる、というシチュエーションなんだけど、ただでさえ海は映すものがなくて映画をもたせるのが難し…

モデル連続殺人!

2016/7/20鑑賞 監督:マリオ・バーヴァ ブライアン・ デ・パルマまで通底するドギつい偏執的な感覚。凝りすぎの美術、ギトギトした色彩、映画的創意工夫の数々。美女を殺す、殺す、殺す。揺れる赤い受話器。 会話シーンが弱くて眠たくなる。ジャーロ映画の良…

リヴァイアサン

2016/9/17鑑賞 監督:ルシアン・キャステイン=テイラー、ヴェレーナ・パラヴェル 巨大な底引網漁船アテーナ号のあちこちにカメラを引っ付けて撮影されたドキュメンタリー映画。 ほとんどが商業映画ではダメ出しされて使えないような不出来なショットばかり…

気狂いピエロの決闘

2013/3/23鑑賞 監督:アレックス・デ・ラ・イグレシア 観る前の期待は大変高かったし、OPも実にかっこよかった。脚本のテンポもいい。 問題は、早過ぎるカッティングと、見にくいライティングである。マジで視覚的に見づらくて、快感につながってこない。…

遊星からの物体X ファーストコンタクト

2013/1/14鑑賞 監督:マティス・ヴァン・ヘイニンゲン・ジュニア 名作『遊星からの物体X』の前日譚......という設定なんだけど、共通している部分が多過ぎてほとんどリメイクになってしまっている。 なんというか悪くはないんだけど、美点がほぼオリジナル由…

バイオハザードV リトリビューション

2012/12/29鑑賞 監督:ポール・W・S・アンダーソン 最後の魔界みたいな地上は、ウィアードなSF(ミエヴィルとか)っぽくてなぜかワクワクした。 「アクションだけでいい」という正直すぎる欲求が昇華され、本当にアトラクションみたいになってしまったけど…

ワルキューレ

2012/12/19鑑賞 監督:ブライアン・シンガー 傑作クーデター映画。クーデターそのものをサスペンスフルに描くことに関して極めて真面目であり、序盤から最後まで緊張感を駆り立てる演出が適切に配置されている。 サスペンスに必要なのは、キーアイテムのクロ…

ナポレオン・ダイナマイト

2015/12/13鑑賞 監督:ジャレッド・ヘス 皮肉でもなんでもなく、本当に涙なしには見られない名作。 かつては『バス男』という悲惨な邦題をつけられていたが、いまは原題に沿ったものに変更されている。 冴えないオタクの青年を主人公に据えた青春映画で、し…

インターンシップ

2015/12/27鑑賞 監督:ショーン・レヴィ 会社が潰れて無職になった営業マン二人組がGoogleのインターンシップを受ける映画。 ヴィンス・ヴォーンが製作・脚本・主演。共演はオーウェン・ウィルソン Googleという固有名詞が出ており、それに沿って細部が詰め…

影の軍隊

2013/12/9鑑賞 監督:ジャン=ピエール・メルヴィル 外套と帽子の映画。深い被写界深度、長回し、遠景、世界が凍ってしまったかのような色彩。これだけ人が笑わない映画も中々見ない。 個々の場面だと、逃げ込んだ床屋で外套を換えて貰った挿話と、銃殺刑さ…

坊やに下剤を

2013/12/16鑑賞 監督:ジャン・ルノワール ショット数が少なくフルショット主体であるところからも分かるように、当時のトーキー初期の戯曲映画化作品の一環という印象。 演劇・サイレント臭い演技(特に奥さん)がちょっとくどい。 ドアの活用や、カッティ…

ファミリー・プロット

2013/12/4鑑賞 監督:アルフレッド・ヒッチコック インチキ霊媒師を演じるバーバラ・ハリスがとにかく可愛い。霊媒に、麻酔注射に、ダイヤ発見に、とにかく演技をする女で、猛禽めいた可愛さ。 ヒッチコックは拳銃を固定させて使い、役者に自由な取り回しを…

三十九夜

2012/12/24鑑賞 監督:アルフレッド・ヒッチコック 傑作。 ヒッチコックお得意の巻き込まれ映画で、主人公が追われるためにありとあらゆる理不尽が逆算で配置されていく。その視点の制御の完璧さに息を呑んだ。サスペンスとは、窓を通して誰かを盗み視ること…