呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

悲情城市

2016/4/30鑑賞

  • 監督:侯孝賢
  • これまで個人的な経験に基づいた作品を撮ってきたこの監督が祖国の歴史的題材に挑む、転換的な作品ということらしい。映画は1945年の玉音放送から始まり、「第二次世界大戦終結」→「日本による台湾統治の終焉」→「二・二八事件」→「中華民国台北への遷都」という歴史の流れの中で翻弄される市井の人々を描いている。
  • 主演のトニー・レオン台湾語を話せないために聾唖の主人公が生まれたらしい。その聾唖と恋人の会話は中間字幕で示される。
  • 散文的で現実的な国民国家の歴史に詩を埋め込む方法として、トーキー映画のなかに擬似的なサイレント映画の空間を創出することが採用されている。中間字幕には日本語もあり(日本統治時代も扱っているので)、それは日常的な会話から、恋人同士の心の交流、獄中で死んだ人間から託されたメッセージなど、様々である。散文だったり韻文だったりする。
  • また、音として発される作中の台詞も様々な言語が使われている。ぶっちゃけ中国語のバリエーションなんて聞き取れないんだけど、日本語だけは分かるので猥雑さはやや実感できる。外省人(在台の大陸出身中国人)を狩り出すときに日本語が分かるかどうかという方法が採られるシーンもある。
  • 国民国家とは言語の問題なのだなと思うが、映画でよくここまで扱えたなと思った。
  • ロケで印象的なのは、あのどうも斜面に立ってるらしい歓楽街を、高い方から見下ろすように撮っているところ。斜面が複雑な奥になっている、という意味ではアンソニー・マンを連想したけど。