呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

PTU

2021/06/06鑑賞

  • 監督:ジョニー・トー
  • 香港のある街を舞台にした一晩の映画。
  • 組織犯罪課に所属するサー刑事はある晩、自動車に傷をつけたチンピラを追跡中に転んだところを袋にされ、気絶してしまう。やがてPTUに発見されたときには拳銃を失くしてしまっていた。拳銃は自分をボコボコにしたマーの部下が盗んだに違いないと睨んだ刑事は、PTUに所属するホー隊長に要求して証拠隠滅を図り、拳銃の捜索に移る。しかし同時刻、ギャングの息子マーが飲食店で殺害されたというニュースが耳に入ったため、サー刑事は事態がより深刻化していることを認識する。つまり、自分の拳銃が報復に使われるかもしれないのだ。マーの殺害現場を訪れたサー刑事は、証拠物の携帯電話が何度も鳴っていることに気づいて電話をこっそりと取るのだが、そのことが原因で今度はCIDの女警部に目をつけられてしまう。
  • サー刑事がラム・シュー、ホー隊長がサイモン・ヤム、CIDの女警部がルビー・ウォン、PTUの女性隊員がマギー・シュウ。時間制限があって、一つの事件を中心に、複数の勢力がマクガフィンを追いかけながら交錯し、最後にメキシカンスタンドオフをやるという90年代くらいに流行ったような犯罪映画だった。発端になった拳銃紛失事件がかなりドジな結末を迎えるところとかもそれっぽい。
  • ただジョニー・トーなので、ひとかどの映画にはなっている。陰影のコントラストが非常に強く、街灯がほとんどスポットライトのように路面を照らしているし、食事が絡む場面はどれも面白い。ただ、照明のコントラストはきつすぎて、審美的という感じもしない。光が当たっている場所が少ないために画面が抽象性を帯びており、そこが少しだけ舞台演劇っぽい。
  • 食事場面が面白いと言ったが、なかでも事件の発端となる冒頭のシークエンスは映画全体でも一番面白い。数人でゾロゾロと入ってきたチンピラが一人客を押しのけ、店員は謝りながらもチンピラたちに忖度して席の移動を促すのだが、そのあとサー刑事がやってきてそのチンピラたちのテーブルにわざわざ着席し、すると店員が今度はチンピラに他の席への移動を促すのである。飲食を通じて序列を示す場面であり、その後に序列をひっくり返す展開が待っているところも小気味いい。
  • 上記の場面では、携帯電話の着信音が鳴って、その場に居合わせた全員が携帯電話を取るのだけど、鳴っているのは一台だけで電話が掛かってきた人間が順番に席を立っていく。ここも携帯電話を使ったドラマとしては独特というか、携帯電話の携帯性が生かされた演出で面白かった。証拠物の携帯電話がひたすら鳴る場面といい、珍しく携帯電話を小道具としてかなり活用できている映画でもある。また後半では電話ボックスを介して、事件に関わっている二人がすれ違うという場面もある。
  • 警官を含め、出てくる勢力がみんな当たり前のように拷問をするし、ドジを踏んだ刑事役のラム・シュー以外はほとんどみんな無表情なので、画面レベルでは情緒が全くない。その代わり劇伴が情緒的で、かなりうるさく、そこが私には欠点にしか思えなかった。画面と劇伴のトーンの差が大きくて、映画のバランスが崩れているように思えるのだ。
  • サイモン・ヤムがゲームセンターでチンピラをひたすら平手打ちする場面は、『その男、凶暴につき』を連想させる。
  • ほぼ説明台詞のない不親切な設計の映画だけど、衣装で基本的に組織の性格が表現されていて、軍服みたいなPTU、背広のCID、、、ラム・シューは小汚い刑事らしい服装。CIDはトップが女性だし、クリーンな組織かと思いきや、普通に拷問を始めるっていうね。
  • PTUが証拠隠滅をする場面がかなりしつこく繰り返されるし、軍服を着ていることもあって、この集団の汚れっぷりが終盤まで強調されるが、これはラストの展開の前振りであったことがわかる。