呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

キャッシュトラック

2022/1/9鑑賞

  • 監督:ガイ・リッチー
  • ロサンゼルスにある現金輸送専門の警備会社フォーティコ警備は、襲撃事件で生じた欠員を補うためパトリック・ヒルというイギリス人を採用する。ヒルは倒産したオレンジデルタ警備に所属していた経験者で、採用試験の成績こそ平凡だったが、勤務中に遭遇した襲撃事件の際に六人の犯人をすべて射殺し、一躍、社内でヒーロー扱いされる。しかし、同僚の何人かはその手際の良さや冷血ぶりを怪しみ、、、パトリック・ヒルの正体は実は...という映画。
  • パトリック・ヒルジェイソン・ステイサムが、その現場のボスをホルト・マッキャラニーが、突っかかってくる中堅社員をジョシュ・ハートネットが演じている。フランスの犯罪映画のリメイク作らしい。
  • ガイ・リッチーがこんな映画を撮るの?と思うくらい、軽薄さのない無骨な犯罪映画になっている。冒頭の空撮からして、粗野な印象があり、その後は『ヒート』のような現金輸送車襲撃シーンに移るのだが、カメラは常に輸送車内に置かれ、一度も外に出ない、視野の制約された長回しで撮影される。銃声は聞こえるのだが、観客からは状況がよくわからない。
  • B級映画では予算上の制約から行われる、上記のオフスクリーンの活用を、その後の展開のなかでミステリ的に消化していくのだが、こういうところはガイ・リッチーだと思った。時系列を前後させた複雑な語りになるところはB級映画としてはスロースターターに感じられるが、余計なところで足を止めず、省略を活用して無駄なく語っている。
  • 全く笑わないジェイソン・ステイサムや、簡素な暴力表現、そして作中での描かれ方の好悪に関わらず無慈悲に人が死んでいくところなど、冷血な映画なんだけど、なんというかその粗野さがしっくりきていないというか、ガイ・リッチーが向いていないことをしているような印象があった前半だったが、段々と様になっていった。セリフは臭いが。
  • 『ヒート』みたいなシーンから始まったから、リアル志向でコンバットシューティングでいくのかな?と思ったが、ステイサムは射撃試験の場面からずっと片手撃ち。たまにノールック。
  • 現金輸送車をはじめ、狭い空間がいくつも出てきて、そこに人を出入りさせるのが上手いので見られる。銃撃戦の構成もロジカルだし、強盗ものの良いところって、動線を誤魔化せない、誤魔化すとカットがつながらなくなるところよね。帰ってきた輸送車を室内に入れる場面で、制御室にいる人物が運転席をカメラで確認したあとにシャッターを開ける段取りになっているんだけど、この場面を見た瞬間に、後の展開で侵入されるんだろうな......と思った。
  • 現場労働者みたいな顔をした連中ばかり出てきたところに、ジェフリー・ドノヴァンがポツンと配されるあたりは意外性があった。
  • 犯罪の動機として語られるのは「年金」とみみっちく、これといった内面を描写されない悪役スコット・イーストウッドの薄っぺらさ含めて、ハメット的なハードボイルドだと思った。