呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

モンタナの目撃者

2021/12/24鑑賞

  • 監督:テイラー・シェリダン
  • ある不正の調査を依頼された会計士は、ある朝ニュースで自分の依頼主が殺害されていることを知ると、身の危険を感じたのですぐさま息子を連れて逃亡を図るが、やがて差し向けられた追手の待ち伏せに遭い、反撃むなしく惨殺されてしまう。その死に際に不正の秘密を託された息子は命からがら逃げ伸び、美貌の森林消防隊員と出会って助けを求める。一方、暗殺未遂を知った刺客の二人組は、生き残りである少年を殺し任務を完遂するために、会計士の周辺人物にまで手を伸ばし始めるのだった。
  • どことなく気の毒な悪役を演じるエイダン・ギレンが魅力的だった。絶妙な顔をしている。クリストフ・ヴァルツに少し雰囲気が似ているというか、殺し屋という役割がしっくりと来ていないようなホワイトカラーっぽい佇まいと、かえってそれが怖い印象を与えているところとか。会計士の暗殺時に、ターゲットの運転する車に衝突されていきなり怪我をするのだが、そのあとも継続して痛ましく傷を増やしていく。本作では、どの登場人物もみな死なない程度のダメージを負っていき、その痛みを抱えながら行動し続ける様子がしつこく描写されるのだが、エイダン・ギレンはその傷の負い方も一番魅力的だった。
  • 会計士が暴いた不正の中身は最後まで明かさず、二人組の殺し屋は常に扮装をするので最後まで所属が明らかにならない。そういった、背景を一切用意しない古典的な作りや、余計なことを説明しない語り口は良かったけど、森林火災だけでクライマックスを作るところにノリ切れなかった。『イコライザー2』での嵐はゴーストタウンを作る異化効果があったが、森林火災は結局のところ時間制限を作る程度の意味しか感じられなかった。途中、落雷が雨のように落ちてくる平原を走り抜ける場面があるのだけれど、それと同じで、終盤の炎の嵐が吹き荒れる中での殺陣も、それ自体にあまり異化効果は感じられなかった(むしろ木を挟んだ格闘を当事者のPOVで映したカットのミニマルさに感じ入ったところだ)。様々な意味で、実写映画における自然の扱いは難しいと思う。
  • 引き返しや任務未完、負傷が多く、全体的にストレスフルな作りである。また、法執行官がほとんど無力な中で、妊婦が最も活躍するあたりもユニークだ。
  • カメラは透明でほとんど特徴を述べられない。