呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

あるメイドの密かな欲望

2021/7/22鑑賞

  • 監督:ブノワ・ジャコー
  • パリ暮らしをしていたメイドのセレスティーヌは、地方に暮らすランレール夫妻のもとで住み込みで働くことになるが、女主人は性悪でいじめ同然にメイドをこき使い、それに頭の上がらない旦那は好色でセレスティーヌに何度も言い寄るので、彼女は悪態をつくばかりの毎日だった。
  • ブニュエルルノワールの『小間使いの日記』と同じ原作で、メイドのセレスティーヌをレア・セドゥが演じている。あと、小間使い仲間でユダヤ人嫌いのジョセフを、ヴァンサン・ランドンが演じている。
  • ブノワ・ジャコーの映画を見るのは初めて。前半は、物語を語るという感覚ではなく、屋敷や庭という場所を使い、役者を動かして遊ぶ感覚が先行しているが、こういう映画を久々に見た。
  • そういう意味では、やっぱり見どころは、奥様のいじめで3回階段を上り下りさせられて針と糸とハサミを持ってくるところだろう。何度も階段を上り下りさせられ、そのうち息を切らして、奥様を睨みつけるレア・セドゥにこちらのテンションも上がって来る。
  • 奥様の性悪ぶりが凄くて、モニターの前で何度も絞め殺してやりたくなった。メイドのレア・セドゥが「それ聴こえてるだろ」みたいな距離で悪態をつくところもいい。やれ! 殺せ! という気持ちになる。
  • 自然光で撮影された歴史物という、いわば文芸路線とも言えそうなほど堅い題材なのにマイケル・マンパブリック・エネミーズ』みたいにカメラが荒っぽく動きまくる。揺れるカメラと性急なズーミング、被写体に不自然なほど近いカメラ、乱暴なパンなどが生ものとして作用して、映画の印象を変え、グズグズに崩しているように見える。そのせいでブラーが多く、画面がやや見づらいのはあまり好みではないが、、、まあ古典的にかっちりと撮られるよりは面白いか。
  • 勿論それだけだと単に雑な映画になるところが、照明に妥協せず、狭い構図も作り、フレーム内フレームも駆使することで、ただラフなだけの画面にはなっていない。
  • 性急なズーミングの意味というか位置づけがあまりよく分かっていない。ホン・サンスのように一種のカッティングとして、あるいはリズムを作るために使っているとしても、使い方はやや単調で役者の顔へのクローズアップが非常に多い。
  • 後半、セレスティーヌの過去の仕事が語られたり、屋敷で秘密の計画が進展していくと、やや説話重視という趣向になっていき、少し物足りなく感じた。
  • セレスティーヌにとっては贅沢暮らしをできていた過去の回想の場面は良い感じ。大きなお屋敷で、病気がちの青年と海で遊び、ベッドで性交をする。その後、青年が情交中に死んで、喪に服し、売春婦として勧誘されるレストランの場面では最もレア・セドゥが美しく撮られていた。他の場面ではやや茶色っぽくも見える髪を、完全にブロンドとして撮影し、肌も陶器のように見せる光の扱いがいい。喪服の黒さと、ソファの赤さも同時によく出ている。
  • 森の中で殺されて内臓を引きずりだされたという少女については、作中では謎のまま。原作がそうなのかもしれないが。犬が銃殺される場面と並んで、この映画に出てくる暴力的イメージの一角。
  • 奥様に対する憎しみでレア・セドゥに感情移入できる前半に対し、後半の展開はやや飲み込みづらいものになってくる。ハリウッド流の脚本ならもう一波乱ありそうなところで終演するのだが、100年以上前の原作にそういうことを期待するのもよくないか。