呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ブレードランナー 2049

2021/10/19

  • 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
  • あらすじはウィキペディアに詳しい。
  • 主人公であり、LAPDブレードランナーを務めるKをライアン・ゴズリングが、そして彼を家で待つメイドAI(ウォレス社製)ジョイをアナ・デ・アルマスが、冷酷な追手であり、ウォレス社長の右腕的存在であるアンドロイドをシルヴィア・フークスが、ウォレス社長をジャレッド・レトが、リック・デッカードハリソン・フォードが演じている。
  • 可視範囲では大層評判の悪かった『ブレードランナー2049』だが、普通に面白い。ヴィルヌーヴの堅実さというか、作家としての統制が満遍なく注がれている印象で、背景での微妙なアクセントや動きまで満足した。すごく面白いというよりかは、欠点や、大作SF映画にありがちな残念な点があまりないという感じ。
  • シルヴィア・フークスがネイルをやってもらいながら、塵山でライアン・ゴズリングを襲う浮浪者たちを空爆する場面。なんというかミリタリー映画の一番美味しい部分が、大作SF映画に唐突に挿入されるような感触がある。
  • ライアン・ゴズリングハリソン・フォードの関係がそのまま本作とオリジナルの関係のアナロジーになっている。美しすぎる感じもするが、この謙虚さのおかげで感動的な映画になっているようにも思える。
    • この私のためでもない、大義のためでもない、ごく私的な救済のため(しかも恩恵を受けるのは他人)というのはとてもハードボイルド的なのではないかと思えた。
  • 細かいところまで気の利いている映画で、例えば、主要登場人物はほぼ全員、出のショットがある。最初は後頭部を映していたり、影に入っていたり、ボカした背景にいたりするのが、次第に明かされて行って顔がアップになる。シルヴィア・フークスだけちょっと出のショットがわかりづらい。
  • 水がモチーフになることが非常に多くて、確かにタルコフスキーの名前が出てくるのもわかるけど、それ以上にヴィルヌーヴお得意のガラスの(フレーム、鏡面の)映画だと感じた。水はガラスをゆがませ、不可視にし、光を屈折させる役目である。
  • 例えば、塵山でゴズリングが浮浪者たちに襲われる場面。車の窓ガラス越しに見えていたジョイがふっと消えて、そのバックに浮浪者の影が見えるところとかは、車の窓ガラスをフレームとして上手く使ったヴィルヌーヴらしい細部だろう。浮浪者たちの襲撃というイベントのはじまりを、印象付けるショットだ。
  • ヴィルヌーヴはスペクタクルというか、見世物としての映画は得意で、いろんな場所を訪れて奇抜な画を見せるSFの企画は上手くあっているのではないかと思った。あと160分間、ハリウッドで作家性を維持できることもすごい。
  • ジョイの末路については納得できなかった。シルヴィア・フークスにああいう行為をやるメリットがないんだよね。まあ気の短い奴なのかもしれんけど。ゴズリングを自暴自棄にする選択だし、ここはプロット全体の流れを優先したように思えた。