呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

アオラレ

2021/8/22鑑賞

  • 監督:デリック・ポルテ
  • 型落ちのボルボに乗った美容師のレイチェルは今日も寝坊。息子のカイルを学校へ送りながら職場へと向かうが、高速道路は大渋滞している。顧客からは遅刻を理由にクビとなり、最悪の気分のまま下道に出るが、信号待ちで止まると、前の車は青になっても発進しない。勢いよくクラクションを鳴らすがまだ動かない。イラついたレイチェルが追い越すと、つけてきたドライバーの男が「運転マナーがなっていない」と言う。レイチェルに謝罪を求めるが、彼女は拒絶して車を出す。息子を学校に送り届けたものの、ガソリンスタンドの売店で、さっきの男の車があることに気がつく。店員とその場にいた男性客に事情を説明すると、男性客が一時的にボディガードの役割を買ってくれた。男のナンバーを控え、車に戻ったレイチェルだが、ボディガード役を買って出た男性客は跳ねられてしまい、例の男の車が背後から猛スピードでやってくるのが見える。レイチェルは、常軌を逸した男の「あおり運転」に苦しめられるのだが、それは始まりに過ぎなかった。
  • 不倫した妻とその浮気相手を殺害し、執拗な「あおり運転」を繰り返す男をラッセル・クロウが演じている。運転する車はピックアップトラックで、途中一度、車を乗り替える。
  • オープニングは、あおり運転や、社会不安を反映したニュース映像と、市街地の風景撮影を組み合わせた不穏なザッピング映像になっていて結構かっこいい。テンションが上がった。
  • 車、道路、携帯電話といった即物的なものばかりを活用したシンプルな活劇を楽しんだ。余計なものをあまり出さず、「あおり運転」にまつわるシチュエーションをエスカレートさせていくので何も考えずに見れる。
  • 渋滞の場面が多いのも新鮮で、「運転あるある」的な楽しみ方もできそう。道路だとやはり、作り手も動線のことを第一に考える必要があるので、アクションが面白くなる気がする。
  • 公共の場での暴力シーンが多いことも面白さの一つで、前後左右を車に囲まれた渋滞シーンで、レイチェルがラッセル・クロウにガンガンぶつかられるのだが、周囲は全然気づいてくれないところなどは可笑しい。ラッセル・クロウはあおり運転をするだけではなく、車から降りてレイチェルの知り合いに次々と暴力を振るっていくので、つきまといやストーカー犯罪ものっぽさもある。弁護士を殴るマグカップの一撃!
  • 主役のレイチェルは一方的な被害者とも言いづらく、寝坊の常習犯であることや、スマホにパスワードなどのロックをかけていないこと(後にそれが仇となる)から、だらしのない人物として描写されている。また、きっかけとなったトラブルでは、ラッセル・クロウの言い分にも説得力があり、乱暴にクラクションを鳴らしたレイチェルにも落ち度がある。もっとも、後のエスカレートを考えると、明らかに落ち度を被害が上回っているのだが・・・。
  • ラッセル・クロウ演じる男にも、同情できるような背景が設定してあり、確かに常軌を逸した犯行をするのだが、妻との離婚や、その妻と(おそらくは)弁護士との浮気などで自暴自棄になっていることが推測できる。この点、追って来るドライバーについて一切の説明をしない『激突!』(スピルバーグ)とは、明らかに趣向が違う。よって図式的な不条理なスリラー映画というより、「あおり運転」その他の社会問題を反映した、人間臭い内容であると言え、そこを余計なものだと考える向きもあるだろう。
  • 終盤、室内劇になってしまうと平々凡々になるのと、全体的にシナリオの意味付けがシンプル過ぎて構成が読めてしまうところや、(社会問題を反映しているため)ややもすれば凄くリッチな交通安全啓発映像に見えなくもないところなど、理性的で映画の爆発力を削いでいるように思えた。