呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ヴァチカンのエクソシスト

2023/7/23鑑賞

  • 監督:ジュリアス・エイバリー
  • ヴァチカンのチーフエクソシストとして、数多くの悪魔祓いの実績があるアモルト神父は、教皇からある少年の悪魔祓いを依頼される。
  • モルト神父をラッセル・クロウが演じており、お茶目なキャラ付けが行われている。また現地で一次対応をしたあと事件に本格的に巻き込まれていく若い神父をダニエル・ソヴァットが演じている。そして教皇に扮するのはなんと貫録たっぷりのフランコ・ネロである。
  • 途中にキリスト教偽史の要素がある他、「おれのボスは教皇だけだ」と語るラッセル・クロウの出で立ちがコミック的であることを除くと、かなり正統派のエクソシストもので『コンスタンティン』というよりは死霊館シリーズなどに近い。ジャンプスケアや、恐怖を引っ張るような演出もあるのでそこそこ普通に怖いホラー映画。
  • 悪魔との攻防の組み立てはロジカルで、攻守の手番も比較的わかりやすい。手を変え品を変えアイデアを凝らすというよりは、ロジカルな組み立てとアクション演出のパワフルさで押していく作風で、絵筆のストロークが生真面目な印象がある。一方、悪魔が人間の過去を覗くことができるという設定から、むしろあらかじめ触れられたくない過去のことを同僚に「告白」という体で明かしておくことで心構えをするというノウハウがあるらしく、メタ的には登場人物の過去を掘り下げる口実になっている。
  • とはいえ、アモルト神父のトラウマになっている「過去に救えなかった女性」が飛び降りて死んでいるのであれば、映画的には「飛び降りる」アクションを反復して過去を払拭させてあげてみてはどうかと思った。でなければ小説的な回想だと感じられる。
  • エクソシストものは舞台が屋内のそれも一室に閉じやすい傾向があるのが難点だが、本作は空間的に地下を使ってボリュームを出しつつ、時間的には過去のキリスト教の歴史に手を伸ばすことでボリュームを出している。が、満足しきれないというのが本当のところだ。もっと屋内空間を使って遊んでほしい。
  • 祈りを捧げたり、十字架を額に押し当てたりする動作に映画的な情動が果たして載るだろうか。拘束された患者(悪魔に憑かれた少年)と静止して向き合うことに、そもそも出発点としての不利はないだろうか。私の不満はどちらかといえばこの映画そのものというよりも、エクソシストものという題材に対してあるのかもしれない。
  • 大体この手のホラーだと一人目の悪魔祓いは噛ませ役が相場なのだが、本作のダニエル・ソヴァトは部屋に入っていった一秒後には悪魔に叩き出されて壁に打ち付けられており、なるほど余計な時間を使わない映画なのだと感じ入った。