呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

密林の悪魔

2022/2/21鑑賞

  • 監督:ニール・ブロムカンプ
  • Netflixで公開されている短編シリーズのひとつで、ブロムカンプが独立系の制作会社Oats Studiosを立ち上げて以降の1作である。上映時間は26分。原題は”Firebase”なので、邦題はかなりの意訳。本作も以前Youtubeなどで公開されていたので、これで見るのは2度目だけど、恐らくフルサイズを見るのは初めてだと思われる。
  • ベトナム戦争の真っ最中、アメリカ軍は不可解な現象に幾度となく遭遇する。殺害したベトコンの死体を解剖すると、皮膚の下にあったのは昆虫じみた硬質な外殻であり、人のものではなかった。また、何人もの兵士が、戦車や人間が空中に浮かんだ光景を証言し、その背後には”リバー・ゴッド”と呼ばれる「悪魔」がいるという。”リバー・ゴッド”には銃が効かず、姿が見えず、ナパーム弾を撃ち込んでも直立不動で生きている。
  • 上記のとおりベトコン側についた「悪魔」こと、元農民のリバー・ゴッドをめぐる挿話がいくつか紹介され、それに対抗するためにやってきたCIAが、今度はアメリカ軍に所属する不死身の男を抜擢し、「悪魔」を殺そうとする・・・。という導入部で話は終わり。すごくいいところで終わるので、短編というより長編のプロモーション映像や予告編に近い。かつては完成版を作るためのクラウドファンディングが募集されていたようだが、現時点では未達で頓挫しているようだ。
  • ベトナム戦争当時の記録映像風のエフェクトがかかり、空中に人や戦車が浮かんでいく映像はまさに、チャールズ・ストロスの「コールダー・ウォー」を映画化したら、このような雰囲気になるのではないか、という感触で非常によかった。クトゥルフ的な恐怖感があるというか、歴史×オカルトもの独特の雰囲気がある。
  • また、”リバー・ゴッド”の造形は基本的にはバーホーベン版『インビジブル』の透明人間(透明に変化中のやつ)という感じで、密林を肉付きの骸骨が闊歩するヴィジュアルの強烈さは、ここを見るためだけに本作を視聴してもいいと思わせるような出来だった。また、単なる骸骨で終わらず、どこからともなく空中を浮遊してきた骨や肉片を身にまとって西洋の甲冑騎士のようになるのも非常にグッド。
  • 低予算なのは見てとれるものの、密林にヘリコプターを飛ばしている。IMDbによればハワイとUSAロケ撮影のようだが、ヘリコプターはチャーターしたのだろうか。機体には部隊章がついている。
  • ”リバー・ゴッド”の対抗馬として選ばれた「不死身の男」は要するに、「なぜか弾が当たらない幸運の男」らしいが、実はそれが単なる幸運なのではなく、世界のひずみやバグのようなものであり、科学的な裏付けがあるかのように語られる。そのため、その男の力を強化するアーマーも出てくる。
  • VFXや特殊効果は抜群だが、画面からは低予算であることがしっかりとわかる。それは色味が少ないせいか、衣装や小道具がどことなく薄っぺらいせいか、照明の問題か、モブの少なさのせいか、全体的に画面が平板で何とか成立しているという感触だった。また、近接アクションシーンはカメラの揺れが大きくて何がなんだかわからず、強面の米兵がタバコを捨てる動作には大して気を遣っていない。今一歩、映画の画面になっていない。