呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

誘拐犯

2021/2/19鑑賞

  • 監督:クリストファー・マッカリー
  • 若い無法者二人組が、代理母を誘拐して金持ちから身代金を強請ろうと画策するのだが、実はその代理母の依頼主は裏稼業とも通じている大物で、二人の計画は狂い始める。
  • 代理母がまず心変わりして子を自分のものにしようとし、大物のボディガードは主を裏切って身代金を強奪しようとし、妻はボディガードと浮気している。後から加勢に現れた老人の掃除屋の思惑は雇い主とすれ違い、二人の無法者の間にも考え方の違いが生じ始める。すべての登場人物の思惑がそれぞれ微妙にすれ違い、利己的にふるまうハメット的な筋書きだが、赤子の存在と、"赦し"という主題がそこに紛れ込むことで、映画に救いがもたらされている。
  • 銃撃戦に非常に凝っていて、特に最初、ボディガードの裏をかいてベニチオ・デル・トロライアン・フィリップ代理母を誘拐しようとする場面では銃を向けあう膠着状態に入ったあと、撃ち合うのではなく、銃を向けあったまま離脱するまでの行動を逐一撮るのである。これはマニアックな趣向だ。そしてその後にあるカーチェイスでは、狭い路地に入り込んでゆっくりと車を走らせ、その車を遮蔽物に複雑で静かな銃撃戦を展開していた。
  • 登場人物にはコンバットシューティングを再現させ、また律儀に制圧射撃を織り込むことで、リアルな銃撃戦を作ろうとしている。ただ、そのため銃撃戦が非常にロジカルになり、終盤の長い撃ち合いの場面などは緊張感があるものの、少し渋すぎるのではないかとも思った。
  • 赤子の産声が殺し合いの終わりを告げると、若者と女が死地から抜け出し、老兵がそれを見送り、無法者は地面に転がって血を流している。古典的な終わり方。
  • 代理母を依頼した大物の妻は、いたるところで不気味にフレームインする。オチも彼女が担当している。
  • クレジットでは、老いた掃除屋を演じるジェームズ・カーンの名前が最初に出るのだが、『ゴールデン・カムイ』にも出てくる「老いぼれを見たら生き残りだと思え」というセリフはこの映画から取っているのだろうか。ジェームズ・カーンは吹き替えでこう言う。「老いぼれを見たら、修羅場を生き抜いたと思え」。