呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ウィッチ

2018/1/16鑑賞

  • 監督:ロバート・エガース
  • 17世紀アメリカ、ニューイングランドの入植地から追放された一家が、痩せた土地で暮らしていると、長女トマシンが生まれたばかりの弟を見失ってしまう。父親は狼がつれていったのだと諭すが、小さな双子の子供たちはそれを魔女のしわざだと騒ぎ立てる。
  • 植民地時代のアメリカを舞台にした、かなり本格的な魔女譚で、『ヘルボーイ:捻じくれた男』などが好きな人間にとっては嬉しい。
  • 父親、母親、双子、弟のケイレブ、長女トマシン、そして山羊、といった登場人物にそれぞれ意図的な空白があって、「実はこいつ魔女なんじゃないか?」と疑うように仕向けている。作り手が意図しているように、当時の民衆が考えていた魔女の恐怖というものがそれなりに生々しく実感できるのだ。特に、呪いに苦しむ弟ケイレブを救うために家族みんなで祈りを捧げる場面、突然聖書の言葉を思い出せないと言いはじめる双子にはゾッとさせられた。
  • この感覚は、高橋洋の言う「恐怖」と「怪奇」の違いに従えば、「怪奇」に該当するのだと思う。恐怖とちがって、怪奇には、ファンタジーの要素があり、恐怖の対象にとらわれていることを望ましいと思っている側面がある。だから、性の目覚めにより実姉トマシンを意識しはじめている弟ケイレブの前には、スーパーモデルみたいな魔女があらわれるのだ。
  • 低予算だと思われるが、ロウソクの火で照らされた画面には拘りがあり、高解像度のカメラゆえに成立する薄暗い画面は、汚いはずの環境がクリーンに再現される倒錯的なルックになっている(レフンの『ヴァルハラ・ライジング』みたいな)。見応えはあるが、ありがちといえばありがちだと思う。
  • 演出・構図・編集はやや単調で、一本調子に感じられた。冒頭近く、村から追放される家族のPOVでながめられる村の景色が、とても狭く、そして最後には扉が閉じられる。この場面のように、審美的な画面の選択が同時にストーリーを語る上での機能をも果たしているような箇所が少ない。
  • また、心理と妄想の飛び交うシナリオなので、内側からの切り返し(肩越しではなく、話している人物の真ん中にカメラを置いて、交互に切り返す手法)が多くなる。この手法で、観客に画面外を意識させて緊張感をもたせるのはいいけど、シンメトリーな顔のアップが多くなって構図に単調さが生まれていると思う。そういえば、主演のアニャ・テイラー=ジョイは『スプリット』でもシンメトリーな顔のアップで撮られることが多かった。

  • 本ブログの記事からの引き写し。 clementiae.hatenablog.com