呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

アポロ13

2016/1/30鑑賞

  • 監督:ロン・ハワード
  • バストショットばかりだが、ハードボイルドに徹する宇宙飛行士とNASA職員たちの描写、そしてフィクションならではの価値観の反転を備えていることで名作足りえている。
  • 注目されないフライトであることは、発射成功後の公的な地球へのメッセージをごく私的な家族へのメッセージへと変奏する美質になり(価値観の反転)、逆にトラブルが起こったあと急に注目しだすマスコミ関係者を頑なに拒否する妻の行動こそを英雄的なものにする。
  • 本作で最もハードボイルド的な冷静さを保っているエド・ハリスは一番美味しい役だ。登場場面からして、妻から送られたベストを先に見せて、そのあとアップショットを撮る。スター扱いである。あとは混乱した状況下で"Stay cool", "Calm down"と繰り返させる。ハードな事態にこそ冷静たれ、プロフェッショナルたれというわけで心理は語らず、観客に推し量らせる。
  • 前半はアポロ13号の「13」にまつわる話など、とにかく些細で実際的なイベントを積み重ねて、不吉さを醸成していく演出である。
  • 既に人類の月面着陸が達成されたあとの、注目されないフライトである点や、熟練のチームメイトが直前で外れる不運など、そして代打の人間が好色であったりもする(むろんケビン・ベーコンである)。
  • エド・ハリスに関しては、タバコを吸わせるタイミングも完璧だと思う。ベストとタバコのいち早く特権的な導入が、この映画で一番アウトローじみた顔をしているこの役者を際立たせる。
  • また、ミッションから外された宇宙飛行士は、直前に外されたからこそ可能な任務によって三人を生還させることができる。これもドラマ的な反転だ。
  • さらに、「好色」としか描写されていなかった代打バッターも、操縦士という職業的運動を通じて真にチームメイトとなる。利害関係を越えた友情! 
  • 「医者」は職業的運動を共有しないので、最後まで徹底的に冷遇される。ちょっとかわいそうではあった。
  • トム・ハンクスら三人の宇宙飛行士は、月面を踏むことができないので、ただ月を見つめることになる。あるいは、「それはもう見た」と言って、観客に冒頭の妻との幸福なやりとりを思い出させる。そういう反転的で、ロマンチックな美しさがある。