呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

透明人間

2021/1/3鑑賞

  • 監督:リー・ワネル
  • 新年の映画初めは『透明人間』。完全にホラー映画だったので選択を間違ったような気がしないではない。
  • エリザベス・モス演じる主人公(セシリア)がなにやら深夜にこっそり自宅(豪邸)から逃げ出そうとしている、という場面から始まる。動機の説明は一切なく、いきなり実行当日から映画を始める感覚はよかった。
  • 妹の助けもあり、逃亡は辛くも成功。夫のエイドリアンからDVや束縛を受けていたことが理由らしい。逃亡後は、娘を持つ黒人の友人に匿って貰っているが、セシリアはトラウマで玄関先のポストにも行けない状態。いかにエイドリアンにひどい目にあわされたのかは直接描かれないが、症状の酷さでほのめかされる。
  • その後、エイドリアンが自殺していたことが判明。有名な科学者だったからか、ニュースになっていたのだ。夫の死を知ってようやくセシリアはトラウマから解放され、外を出歩けるようになる。
  • しかし、それからたびたび身辺でおかしなことが起きる。ボヤ騒ぎ。再就職先の面接では、入れたはずの必要書類の紛失。誰もいないはずの部屋にある気配。自分名義で妹に送られた覚えのない中傷メール。匿ってくれている友人の娘を殴りつけたという濡れ衣。
  • セシリアを孤立させるために、上述の中傷メールと、娘を殴りつけたことが使われるんだけど、ここがあまり納得できなかった。詳細を話さなくても深夜に自分のために車を出してくれるような妹が、あっさり信じ込む中傷メールとは一体何か。二人の関係についての描写が少ないのでうまく呑み込めない。また、友人の娘も殴られたことをすぐにセシリアの仕業だと錯覚するものだろうか、と思ってしまった。結構距離があったように見えたけど。
  • カットをあまり割らない撮影で、ゆっくりとカメラをパンすることで恐怖をじりじりと煽っていく手法が多用される。ただ、音響に頼り過ぎているきらいもある。
  • 前半、透明人間にちまちまとした嫌がらせを受ける場面をじっくりと時間をかけて見せているんだけど、ここが別に心霊映画でもありそうなことばかりで、非常にかったるかった。
  • 「透明人間」を題材にするなら、もっと可視/不可視演出に新しいアイデアが欲しいし、それは透明人間でなければ出来ないことであって欲しい。新味は出せていると思うけど、何回も作られている題材だし、バーホーベン版やカーペンター版の『透明人間』が面白い映画なので、ここはどうしても高いハードルを置きたくなる。
  • 「透明人間」ものでは恐怖よりも視覚的な面白さを重視した方がいい映画になるのではないか、と感じた。だって、見えない何かに脅かされるって心霊映画によくあるじゃないか。
  • 精神病院で起きた襲撃シーンからは、透明人間っぷりを全面に出した長回しのアクションシーンが続き、作り手のテンションも高い。銃の使用に躊躇がないところもいい。これがあと30分早かったらな、と思わされる。
  • 透明人間の存在自体がセシリアの狂言や妄想ではないかと疑われているストーリーなのもあってか、作品世界の広がりがあまりなく、色々な事情が説明されないまま、一気に最後の対決まで駆け抜けていく(エイドリアンはコントロールフリークのソシオパスだと説明されるが、本人が何を考えているのかは不明)。透明人間は目に見えないので、ほぼエリザベス・モスの独演に近い印象を受ける。上映時間が2時間を超えているので、この辺りの広がりの無さがちょっときつく感じられた。背景説明する必要はないと思うけど、うーん。
  • エリザベス・モスはジーナ・ローランズにちょっと似ている。作中では決して「強い女」ではなく、むしろ妹の方が気丈な女性として描かれているが、映画を通じて「強い女」に接近していく、という感じ。
  • エリザベス・モスは典型的な美形というわけではないにせよ、もう少し綺麗に撮れないのかと思った。女性映画だから、ということか、それともこれがリアル派ということなのか。あるいはスター性のない、孤独な顔を選んだということか。