呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

AIR/エア

2023/5/19鑑賞

  • 監督:ベン・アフレック
  • 根拠のないことを信じるアメリカ映画で面白かった。そしてワーカーホリックな仕事映画でもある。かなり透明ながら、のめり込んで一気に見れた。
  • 一九八四年、ナイキのバスケットボール部門は青色吐息だった。競合のコンバースアディダスにはシェアで大きく突き放され、専ら”ジョギング用のシューズ”と認知されている。
  • CEOのフィル・ナイトに同部門の立て直しを命じられたソニー・ヴァッカロは、マイケル・ジョーダンというまだNBAデビュー前の新人選手にキャリアを賭ける。
  • ピチピチの下半身ウェアでジョギングするひげもじゃのCEOフィル・ナイトをベン・アフレックが、”バスケの師”ことソニー・ヴァッカロをマット・デイモンが演じている。
  • ソニーのプライベートには一切触れず、いかにしてマイケル・ジョーダンとの契約を勝ち取るかに焦点をあてたシンプルな映画で、見応えがある。
  • マネー・ボール』、『フォードvsフェラーリ』、『ドラフト・デイ』などのスポーツ業界寄りのお仕事映画が好きなら見て楽しめるだろう。
  • 基本的には王道の映画だが、不可思議なこともやっている。
  • まだ成功するかどうか分からないジョーダンにソニーが即興のスピーチを繰り出す場面では、同時に未来のマイケル・ジョーダンに関する記録映像がカットインされる。不可思議な時間の流れだ。ナイキのプレゼンを聞いて微笑むジョーダンの父親の映像と、その父親が射殺されたとの新聞記事(実際の記録)が編集でつながれる。NBAデビューした後にジョーダンを襲う数々の試練は、バスケの師が告げる予言であり、現在のジョーダンに対するメッセージとも取れなくもない。
  • この映画では、マイケル・ジョーダンの顔を一度もはっきりと映さない。母親との交渉が主軸になるためストーリー上の不都合はないが、会話とアップが多い映画であることを考えると、かなり不自然(=意図的)に映る。一方で、記録映像には現実のマイケル・ジョーダンをはっきりと登場させる。一見、彼を神格化し過ぎな演出にも思えたし「根拠のないものを信じる」ことに焦点のあたったシナリオなのに、歴史的事実であることに依拠し過ぎているようにも感じた。ただし、、、
  • ここから先は妄想。
  • 予定していたプレゼンがマイケル・ジョーダンに刺さっていないことを察したソニーが、即興で語り掛けるスピーチの場面。終わった後に、同僚は口々にそれを「感動的だった」「いいピーチだった」と口にする。
  • 成程、確かにスピーチは感動的だが、映像という水準では別の感動があったのではないか。つまり記録映像に映るジョーダンは不滅だが、それ以外の(演じられた)映像は、全て過ぎ去って忘れ去られたものを、その時その場にあった現在を映しているから感動的なのではないかと思った。映画が過ぎ去っていくのと同じスピードで、実際にあったであろうナイキのバスケットボール部門のプレゼンが過ぎ去っていく。