呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ムーンライティング

2015/6/20鑑賞

  • 監督:イエジー・スコリモフスキ
  • 出稼ぎをするために、ポーランドの不法労働者がイギリスで建物の改築を行う映画。途中、母国でクーデターが起こって帰れなくなるけど、リーダーはそれを仲間にひた隠しにする。あと盗みもやり出す。張りつめた緊張感と弛緩した笑いが同居する感じで、放り込まれている要素も多い。万引き映画の傑作と言ってもいいかも。
  • ある種の鬱屈や不安、不満みたいなものが画面上で物の破壊として現れている。電球は揺らされ、爆発し、テレビも酒瓶を突っ込まれて割られる。光るガラス体を破壊する趣味があるんだろうか。壁はもちろんバッコンバッコン壊され、水道管も破裂し、子どもたちにはサッカーボールをぶつけられる。
  • 感情、エモーションを表現するときに、必ず視覚的に、物質を介して表現する。これは『早春』との共通点でもある。
  • レンタルした機械を返しに行く時にずっと鳴ってるベル、最後のショットでカメラに向かって転がってくるカートの音。このあたりは分かりやすく焦燥感を煽ってくる。あとハンス・ジマーが音楽で参加している。こういう映画にも出張っているとは!
  • ”連帯”のアジ文ポスター。子供たちとのクリスマスソング対決。パンダの人形を運ぶ人。服屋の店員に話しかけるも頓挫する夢。下着姿の美女の濡れ場が窓越しに覗くが、ブラインドが落ちる。一方で堂々と乳房が露わになるのに、それに気づかない主人公。静止して動かない人々。光の点滅。すべての細部が詩として印象に残るのだ。
  • 主人公が自転車で道の奥へと消えていく間に、犬と猫が出会いがしらに威嚇しあい、しばらくして犬が消えると、物を忘れた主人公の自転車が戻ってくる。そして猫がジャンプして塀に上ったところでカット。なかなか一回性がある長回しなのでは。