呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

天才マックスの世界

2021/4/29鑑賞

  • 監督:ウェス・アンダーソン
  • 19のクラブを掛け持ちしているせいで落第を繰り返している15歳の天才少年マックスは、ラシュモア学園のネルソン・グッケンハイム校長にとって「史上最悪の生徒」で、ついに退学処分をちらつかされてしまう。そんなある日、マックスはローズマリー先生に初恋をしてしまう。学園への寄付もしている工場の社長ハーマン・ブルームと奇妙な友情を育みつつ、彼女の気を引くためにありとあらゆる工作(ラテン語の授業の救済、水族館の設営など)を試みるマックスだったが、恋路はまったく上手くいかないのであった。
  • マックスをジェイソン・シュワルツマンが、ハーマン・ブルームをビル・マーレイが、ローズマリー先生をオリヴィア・ウィリアムズが、グッケンハイム校長をブライアン・コックスが演じている。
  • ウェス・アンダーソンの商業2作目で、舞台は監督本人の出身地でもあるテキサス州ヒューストン。ラシュモア学園はウェスの通った学校がモデルになっているとかで、実際のところマックスは若きウェス・アンダーソンにかなり雰囲気が似ている。面長で、眼鏡をかけていて、鼻が目立って、利発そうではあるんだけど、イケメンではないという感じ。
  • すごい人は最初からすごいというか、2作目ですでに特徴的なスタイルが完成されつつあり、あとはもう完成度をどれだけ高められるかという段階に達している。しかし、一方で後の作品に比べるとまだ雑味が多いように感じられる。ただそれが悪いのかと言えばそうではないし、逆に決め切らない部分と決めた部分のあわいがとても楽しめるのだ。実際、ウェス・アンダーソンの中でもこれはかなり好きな映画。
  • 人はどういうところにウェス・アンダーソン"らしさ"を感じるのだろう、と見ながら考える。よく言われるようなシンメトリーの構図だろうか。あるいは、手紙やメモといった被写体を映して「文字」を画面に出すときの手つきだろうか。カメラのレンズは必ず紙面に対して並行で、フォントにもこだわる。そこまでしてやっと人工的に見えるのだろう。あるいは、歩いていく人物を横から撮った横移動の撮影だろうか。ワンカットあたりのアイデアの多さや、テンポの良さだろうか。
  • ウェス・アンダーソンがやっていることを思い切り抽象化していうと、幾何学的な秩序を映画に持ち込んでいるということだろう。実写映画には基本的に雑味が出る。カメラを持って屋外に出て写真を撮ったら、普通は要素が多すぎたり、フレームが甘かったりして大した写真が撮れない。ウェス・アンダーソンはそこに様々な秩序や規則、幾何学を持ち込んで人工的なものにする。だが、実写だから必ず雑味が残り、それがむしろ味になる。そのとき一番頼りになるのはやはりフレーミングとレイアウト感覚で、シンメトリーばかり話題になるが、ウェス・アンダーソンはそれ以外の構図を作るのも非常に得意だ。
  • 魅力的な細部を追っていたら、いつの間にかベタな物語が語られている、というのも彼の作品に共通して言えること。普通に語ったら身も蓋もない話になる気がするけど、それを胡散臭い形式の中で語って、切実さをすくいあげるのがうまい。
  • ローズマリー先生に最初に近づく場面はまっとうにラブロマンスの演出法だったので、少し意外だった。当初、二人は同じフレームの中に映らないのだが、次第にマックスが彼女の映るフレーム内に出たり入ったりして、いよいよ最後は横並びなるのである。

  • オープニングではマックスが所属している数々のクラブの描写が、1クラブ1カットで説明される。エンディングのスローモーションは感動的だ。