呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ワンダーウーマン 1984

2021/3/9鑑賞

  • 監督:パティ・ジェンキンス
  • 以下、ネタバレを含んだ感想。
  • 映画は過去の回想から始まる。女のアマゾン族が暮らすセミッシラでは競技会が開かれており、そこでは大人の戦士たちに交じって幼少期のダイアナがアスレチックめいた課題をこなし、海を泳ぎ、馬を駆ける。そこで誰よりも先行してあわや優勝かと思われたダイアナだが、わずかなミスから落馬してしまい、代わりに近道を使ってしまったためゴール付近で失格を告げられてしまう。ここで彼女には"真実"を見つめなければならないという教訓が刻まれる。
  • 時は1984年、スティーブ・トレバー(クリス・パイン)との別離から66年経過したダイアナ(ガル・ガドット)は正体を隠してスミソニアン博物館で働きながら、かたやワンダーウーマンとして日々悪と戦っていた。ある日、FBIからの依頼で盗品の宝飾品の鑑定依頼が届き、冴えない同僚のバーバラ(クリステン・ウィグ)がその仕事にあたっていたところ、中にはどういうわけか人々の願いをひとつだけ叶える魔法の石が含まれていた。一方で、テレビCMにも出ている著名な事業家マックス・ロード(ペドロ・パスカル)が現れ、バーバラに取り入って石を手に入れたかと思うと、自らを「魔法の石」に変えてしまう。マックスがありとあらゆる人々の願いを叶えていくことで世界は大混乱に陥り、やがて滅亡の危機に立たされることになる。「魔法の石」に願うことで蘇ったスティーブ・トレバーと現世での生活を楽しんでいたダイアナは、その事態を前に厳しい決断を迫られることになる。
  • インタビュー記事で監督本人も意識していることが明言されているが、リチャード・ドナー版『スーパーマン』のような陽性かつ王道のコミックヒーロー映画で、不満点はあるものの、全体としては非常に楽しめた。DCEUの中では今のところ一番いい。
  • 神々の力が込められているらしい「魔法の石」は要するに"猿の手"であり(作中でも"猿の手"で説明されていた)、人々の願いを叶えるために代償を要求する。特定のヴィランがいるというより、その「願いを叶える石」というシステムが世界をめちゃくちゃにしていくところが、昨今のアメコミ映画の中ではちょっと新鮮かもしれない。この「魔法の石」のコミックらしい荒唐無稽さが楽しいし、あからさまに再現された1980年代映画の風景や、古風で不格好なワンダーウーマンのワイヤーアクションといい、意図して造形されたノスタルジックな作風が好ましい。また、悪役を含め登場人物全員がどこか小市民的ではっきりとした「悪人」が出てこないところが善良で気持ちがいい。
  • ワンダーウーマンは戦闘中でも危機に瀕した人がいれば、敵を放って人助けをするのだが、その徹底ぶりが善良な世界観とマッチしていたし、こういうヒーロー映画が見たいんだと思わされた。
  • 冒頭、ショッピングモールで宝石店強盗を働く悪党たちをダイアナがお縄にかける場面があるのだが、ドジを踏んだ強盗犯の一人が自棄になって子供を人質に取った場面では、他の強盗犯たちも思わずそれを制止して「やめるんだ!」と説得にあたる。前述したとおり、一線を越えた悪人が出てこないのだ。
  • 他人の身体を借りて復活したスティーブ・トレバーにダイアナが1984年の文化を案内する場面(前作とは逆パターン)や、戦闘機に乗って花火を潜り抜けるデートの場面は見ていて楽しい。ここでは搭乗員が二人横並びできる戦闘機が使われているが、相当に珍しい機体らしい。
  • ただ、レーダーに観測されるから戦闘機を消さないといけない......という場面で、戦闘機が単に透明になるだけなのは少し気になった(それは目視対策なのでは)。まあ、レーダーからも不可視になっているのだろう。
  • 復活したスティーブ・トレバーとダイアナの再開シーンでは、これまた古風に二人の周囲をくるくるとカメラが回るのだが、その過程で役者がクリス・パインにすり替わるのが少し不気味だった。
  • 多くの人が言っているように、中盤、ダイアナが再びヒーローへの使命へと戻っていく場面が素晴らしく、泣いた。
  • ダイアナがヘスティアの縄を使ってマックス・ロードを説得する場面では、「魔法の石」のルールを逆利用して、悪役であるマックスを、そして彼に願いを叶えてもらった全人類を「世界を救うことのできるヒーロー」に仕立てていく作劇にやはり泣いた。
  • もっともプロットは偶然に頼っているところが散見されるし、バーバラとダイアナの関係は消化不良で(これはチーターが次回作に出てくるためか)、全世界のテレビやPCモニターをハイジャックできる超テクノロジーが突然出てきたりと(マックスがありとあらゆるモニターに表れて、CMのように、悪魔のように、「あなたの願いを叶えます」と呼びかける場面は怖くて良かったが)、あちこちにコミックっぽい強引さはある。
  • 2時間半という尺も長く、特にチーターというヴィランに変貌したバーバラとの戦いが冗長に感じられた。人によってはワイヤーアクションが受け入れられないだろう点を除けば、アクションシーンに特に瑕疵は感じないが、この映画ではむしろドラマの方が見たかったので冗長に感じられたのだ。
  • エピローグでは、また一人に戻ったダイアナが、スティーブ・トレバーの復活の依り代となった男性と再び出会い、言葉を交わす。この場面では雪が降っており、街はお祭りムードに包まれている。前作の雪の場面を思い起こさせる良いシーンである。
  • パティ・ジェンキンスと共同脚本を務めたDCの大物ライター、ジェフ・ジョーンズはリチャード・ドナーに師事をした人物で、彼の作風が好きなら楽しめるだろう。自分は前作よりも楽しめた(前作もジェフ・ジョーンズは脚本にクレジットされていたが、今回の方がより"らしい"ように思えた)。 ※よく考えると、ジェフ・ジョーンズは前作の脚本のクレジットには入っていなかったような気がする。