呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ラッカ

2022/2/20鑑賞

  • 監督:ニール・ブロムカンプ
  • Netflixで公開されている短編シリーズのひとつで、ブロムカンプが独立系の制作会社Oats Studiosを立ち上げて以降の1作である。上映時間は21分。「ラッカ」は以前Youtubeなどでも公開されていたので、これで見るのは2度目。
  • トカゲ型宇宙人の侵略を受けて、虫けらのように人類が殺されているなか(舞台は近未来のテキサスらしい)、かき集めた武器を手に、局地戦で挽回を図ろうとしているジスタンスの話なのだが、なんというかダイジェスト感が強い。情報量が短編でさばける量を超えていて、どうしても細切れになるのでナレーションで補っているという印象があった。
  • 宇宙戦争』とかディッシュの長編『人類皆殺し』を彷彿とするレベルで人間が殺されていて、骨の山が築かれている……という絵にかいたような場面もある。
  • レジスタンスの女ボス的な立ち位置にいるのが『チャッピー』にも出演していたシガニー・ウィーバー
  • テキサスの湿地帯?なのか、汚泥にまみれた地形を空撮するカットがいくつか出てくる。そこに宇宙人の黒いタールじみた有機物状の何らかのテクノロジーが襲い掛かり(テラフォーミングをしているらしい)、蟻塚のような拠点を築いているという状態。侵略の規模、速度、などは不明点が多いものの(エッフェル塔が人類の死骸で装飾される程度には侵略が進んでいるようだ)、少なくともテキサスの都市部にはそのタールが固まったような宇宙人の住処がいくつもあるようだ。
  • レジスタンスがトカゲ型宇宙人を待ち伏せする場面などを見るに、戦闘シーンではイラク戦争が大きく参照されており、具体的にはメタルギアソリッド4を連想する。
  • トカゲ型宇宙人はサイコキネシスを使えるようで、目を見ると精神を操られてしまう(この場面を、真正面からの内側からの切り返しで撮っている)。これに対抗するために、スクラップの山から「脳バリア」なる機械を発明するエンジニア(元放火魔)がいるのだが、その機序は明らかではない。
  • サイコキネシスが出てくる映画にそんなことを言っても仕方ない気がするが、スクラップから高度な機械を作るのはいいにせよ、それが作れるだけの理由を示して欲しいと思う(高度に見えるが、実際は単純な作りだとか)。
  • もっとも、ブロムカンプは3Dアニメーター出身で、基本的にはヴィジュアリストとしての性格が強いのだと思う。しかもゼロから完全に世界を作りたいというタイプではなく、現実にVFXを挿入したときの異化効果に関心があるタイプ。『第9地区』のように現実の社会問題が題材になったのはむしろやりたいビジュアルに付随したものではないかと感じられる(だから『エリジウム』や『チャッピー』では社会について深く掘り下げなければ解決できない問題系、つまり格差問題や革命、AI技術と倫理などについて考察が十分ではなく、それが欠点として大きくなる。)
  • 低予算のCG映像みたいな、黒い輪っかにビルがぶち壊されているところとか、人体改造とか、爆弾で人体がぶっ飛ぶところとか、やってるやってるという感じ。ハリウッドメジャーで製作された作品よりも、人間嫌悪の側面が強く出ている。どうしても社会批評とか、ハードSFとかには向いてなさそうだし、そもそも作風的にハリウッドに向いていないようにも見えたので、本作のように自分のスタジオを作って強みを全面に出すというのもいいのではないだろうか。事実、Oats Studiosではアンチハリウッド的な手法が取り入れられているようだが(参考
  • 全体としては短編というより、長編のダイジェストとか、プロモーション用映像のようで、つかみどころがない。