呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

完全なるチェックメイト

2016/8/21鑑賞

  • 監督:エドワード・ズウィック
  • 冷戦下の代理戦争としてのチェスの世界王者戦。陰謀論者でクレイジーな天才ボビー・フィッシャーと、サングラスかけてまるでスティーブン・セガールみたいなめっちゃガタイのいいスパスキーが戦う。
  • 説話的には素晴らしく無駄がない。フィッシャーが初めて敗北を味わう幼少期編、スパスキー戦以外はチェスの試合を映さない。冷戦あり、米ソ対決あり、パラノイアになったチェスプレイヤーあり、と素材の相性が良すぎないかと思う。
  • フィッシャーの狂気には論理的な説明をつけられるのだが、スパスキーとの第6局は神秘化される。
  • スパスキーを演じる、サングラスをかけたリーヴ・シュレイバーは本当にスティーブン・セガールかと思った。あんなにガタイのいいチェスプレイヤーがいるんだろうか。
  • 将棋はやったことがあるけど、確かに負けると自分という全存在を否定されたかのような屈辱を味わうことになる。それの究極バージョンであるチェス王者決定戦が冷戦に接続されるのは自然だし、陰謀論による屈辱からの逃避も合理的に思えた。
  • ゲームから愛国心へ、ということでフリッツ・ラングマンハント』のような処理もできたわけだが、そのあたり伝記映画であるから違う展開になったということだろう。そういうバージョンも夢想したくなるいい素材。
  • 米ソ冷戦は背景であり、実際的にフィッシャーを阻害してくるわけではない。現実にフィッシャーに立ちはだかるのはチェスの内的な問題であり、唯一セコンドの神父だけが彼に意見をする。他はみな首を垂れる。結局、スパスキーに勝てない原因はフィッシャーが内的に解決したように見える。
  • 内向的な映画だけど、テレビを通じて色んな人がフィッシャーのチェスを見る。フィッシャー自身が追い出した母親が、時々頼る姉が、そしてセコンドが、ホワイトハウスの面々が、市井の人々が。それがちょっと救いになっている。無ければもっと危険なほど内向した映画にも成り得ただろう。
  • 最近恒例の「当時の記録映像」とか「当時のフィルムの質感での撮影」とかを使って時代感を出していた、美術と衣装とロケを目一杯頑張って造形するより低予算で済みそうである。ちょっと陳腐化してきたきらいがあるが。