呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

2018/11/29 鑑賞

  • 監督:ジョン・リー・ハンコック
  • 監督は『しあわせの隠れ場所』や『ウォルト・ディズニーの約束』で手腕を発揮してきたジョン・リー・ハンコック。前作でディズニー創立者の光と闇の一代記を撮り切った実績からも、マクドナルド創立者のきな臭いエピソードを語るにはふさわしい人選だろう。
  • 時は一九五四年、五十代に差し掛かったレイ・クロックは、社会的には十分成功しており、普通であれば引退を考えるような年齢だったが、まだ歴史に残るようなアメリカン・ドリームは叶えていなかった。
  • そんな彼が出会うことになるのが、マクドナルド兄弟の効率的なハンバーガー調理システムであり、その店舗マクドナルドに他ならない。これに惚れ込んだレイは、頑固な兄弟を説得し、フランチャイズを申し出て、一大帝国を築き上げていくことになる。
  • 題材に合わせてか、ジョン・リー・ハンコックの語り口はいつもより早く、カットも短く、無駄なくスピーディーに進んでいく。しかし、その場面ごとに感情を定着させていくことも忘れない。
  • マクドナルドが反面教師とする既存ファーストフード店の退廃ぶりは、営業に失敗しつづけるレイの鬱屈した気分と重ね合わせられる。不良がたむろし、商品はいつも遅れてやってくる。
  • 対して、マクドナルドで初めて食事をとるとき、行列はすぐに進み、人々は笑顔で、レイの隣には子供連れの女性が座り、横並びになる。ここでの食事は幸福そのものだ。
  • また優れた映画では、キャスティングの段階で人物描写がすでに終わっている。レイを演じるマイケル・キートンはギラギラとした野心家そのもの。兄のマック演じるジョン・キャロル・リンチは穏やかそうな巨漢。弟のディック演じるニック・オファーマンは眼鏡をかけた頑固で利発な経営者といった具合だ。
  • マクドナルド兄弟との諍いは基本的に電話を通じて行われるが、これも電話という小道具だけで上手く演出されている。 ジョン・リー・ハンコックは人間関係の変化を、視覚的・具体的なできごととして演出するのが得意だ。
  • レイがジョアンという人妻に恋に落ちる場面では、それが一目惚れであることを強調するために別の本題を用意している。マクドナルドのオーナーになりたいと申し出る夫の話は、レイに妻を一目惚れさせるための(脚本上の)口実に過ぎず、レイの意識は妻ジョアンにしか向いていない。
  • 結局のところ、レイはマクドナルド兄弟からマクドナルドを奪っただけではなく、他人の妻も奪うことになる。そして、これほど人間としては好きになれないような人物が、全体としては、やはりアメリカン・ドリームの体現者として肯定されることがなんともアメリカらしい。
  • 製作会社にジェレミー・レナ―が共同経営者になっている〈ザ・コンバイン〉の名前がある。