呉衣の映画トンネル

映画の感想(ネタバレ有)を置きます

カニバイシュ

2016/11/23 鑑賞

  • 監督:マノエル・ド・オリヴェイラ
  • 特集上映「永遠のオリヴェイラ」で見た。原題は”Os Canibais”とのこと。
  • 非常に変な映画である。舞台は、時代も場所も不明などこかの上流貴族の舞踏会。黒塗りの高級車に乗った貴族が続々と現れ、晩餐会が行なわれる館に入っては群衆から拍手を浴びる。このあたりの無感動な拍手と、それを受ける貴族の仕草は、どちらも機械的なのであたかも人形劇のように見える。すでにオリヴェイラの世界が展開されている。最初の高級車に乗っているのは、貴族ではなく狂言回しで、バイオリンを持った二人一組の怪しげな男たち。歌いながら物語の導入部を語る、狂言回しのその歌いっぷりから、本作がオペラであることが判明するのだ。
  • そこからはもうひたすら歌う。貴族の三角関係と、怪しげな子爵の秘密、ということで物語が進んでいくのだが、もうひたすらにオペラ。うんざりするくらいにもったいぶって歌う。笑い声も機械的で、およそ人間的な情緒はなく、動作も機械的で、『フランシスカ』よりもずっと人形劇に近づいている。
  • 子爵の秘密というのは最初のあたりからずっとほのめかされているのだが、それがいよいよ明かされる初夜の場面になってもずっと歌い続けてなかなか明かされないのでイライラしてくる。で、明かされたかと思ったら、ぼとりと手足が落ちて、芋虫状態の子爵は暖炉で轟々と燃えながら歌う。花嫁はショックのあまり飛び降り自殺をする。それまで嫉妬から、子爵の命を狙っていた男ドン・ジョアンは、いざそんな状態になっている子爵を見てどう反応していいのかわからず、義手義足をとりあえず手にとっては別のところに整理整頓したり、ただ燃えている子爵を眺めたりする(ここがすごくぶっきらぼうに撮られていて、オリヴェイラらしい)。
  • それで翌朝、花嫁の父親とその息子たちが、空腹からその暖炉にくべられている肉(子爵である)を食べてしまい。するとその後、庭で自殺している花嫁と、胸を撃って自殺しようとし、実際に死にかけているドン・ジョアンが発見され、みなが嘆き悲しんでいる。ドン・ジョアンの告白から、人肉を食べてしまったことに気がついた父親と息子たちは動揺するのだが(とにかく不味かったことが心残りらしい)、途中から超展開になってもはやこうなるとなにがなんだかわからない。豚がバイオリンを奏でてみんなが踊るから、大円団っぽい雰囲気だけはある。
  • 正直、魅力もないわけではないが、単調な顔のアップとその切り返しが多いので、終盤の展開にびっくりさせられるとはいっても、ひどく苦痛だった。